(5)ペテロの役割(マーカス・ボックミュール、オックスフォード大教授)
(5)現代の英語圏神学者④、ジョン・B・コッブ Jr.
そんな流れで、最近聞いた中で「一番面白かった」ものを紹介したい。
米国ジョージア州アトランタにあるエモリー大学はメソジスト派の大学でデューク大や南メソジスト大と肩を並べる有名校だ。
そのエモリー大の神学部(キャンドラー神学校※)の『マクドナルド・レクチャー』に2002年招かれて講演したのがジョン・T・ヌーナン(John T. Noonan, Jr.)合衆国連邦控訴裁判所判事だ。(彼は第9巡回裁判所判事という肩書きだが、ややこしいことは置いておく。)
※「神学校」はセミナリーの訳として定着している。それに対し大学院の神学部(ハーバードやデュークだとディヴィニティ・スクール、エモリーや南メソジストだとキャンドラー・スクール・オブ・セオロジー、パーキンス・スクール・オブ・セオロジー)は多少性格が異なる。しかし筆者は大抵の場合それらの学校をセミナリーの意味で「神学校」と訳している。しかし日本ではそのような事情が余り知られていないためか、セミナリーと名がついている学校まで(筆者が行ったアズベリーやプリンストンなど)わざわざ「神学大学院」と訳す方がいるので違和感を感じるのだ。
ヌーナンはカトリックの信徒で、判事としての長いキャリアと共に、大学の法科大学院(ロー・スクール)でもカリフォルニア大バークリー校やノートルダム大で教鞭を取り、法学関係の著作も多い。
その『マクドナルド・レクチャー』は2002年の10月28日~31日にかけて計4回行われたが、「イエスと道徳の専門家たち(Jesus and the Masters of Morality)」と題して
の順になされた。(1)「イエスと裁判官(Jesus and the Judges)」
(2)「イエスと銀行家(Jesus and the Bankers)」
(3)「イエスと姦淫の女(Jesus and the Adulterous Woman)」
(4)「イエスと女奴隷(Jesus and the Slave Girl)」
ヌーナン講演の面白さは何と言っても「法律家・判事」の専門的知識・関心がいかに(資料である)新約聖書(福音書)を「丹念にセンシティブに」読ませるものか、と云うところにある。
筆者のように牧師としてある程度聖書を研究もし時間をかけて読んでいるつもりでも、イエスの教えに関わる制度的なこと(婚姻、利子、奴隷など)は「背景的なこと」として持ち合わせの一般的・常識的知識を前提に読み過ごしやすい。
しかし、ヌーナンは当時の制度がどのようになっていたのか、そして社会的弱者たちがそれら制度の陥穽にどのようにはまって苦しんでいたのか、その状況を克明に浮き彫りにしようと「行間」まで読むのである。
その究明のプロセスでは、自身の法律的知識はもとより、広範な歴史や神学の知識を総動員させる。その徹底した究明の仕方に、人のいのちや運命を左右する法律家・判事としての凄みを感じる。
詳細は紹介できないが、是非4つの講演を聴いてみる事をお奨めしたい。
※音声ファイルは
から入手できる。(もちろん無料だ)