既にご存知の方も多いと思う(このブログの読者の方々の場合は分からないが)。
作者中村光のコミックである。
最近数十年殆んど漫画は読まないのでこのコミックがどういうジャンルで、どんな読者に支持されているとか何にも分からない。
ただ主人公(?)がイエスと仏陀と言うことで取り上げたまでである。
「頓珍漢なことを言ってる」と思われたら、それは最近の漫画に疎いためとご容赦頂きたい。
設定はイエスと仏陀が①「世紀末を無事に乗り越え」、②天界からバカンスのため降臨し、③立川の安アパートで共同生活をする、と言うのである。
かなり荒唐無稽なストーリーである。
でも細部において聖書や仏典、史実(的)のエピソードが絡められる。
二人が地上で織り成すエピソードは21世紀の日常的なもので、コンビニ、銭湯、遊園地(天上の楽園を模したものとの作者の位置づけ)、その他ごく普通の場所が舞台なのだ。
筆者の世代だとギャグ漫画といえば赤塚不二夫だが、聖☆おにいさんもやはりギャグ漫画なのだろう。赤塚不二夫のキャラクターはもっと破天荒と言うか非日常的なのだが、中村光の描くイエスと仏陀はある意味かなり普通なのである。少し極端な部分もあるが至って常識人として振舞っている。そういう意味では現代の若者の特徴と思われる「空気を読む」ことに洗練している。
何がそんなに受けているのか少しネットでリサーチしてみたが、どうやら二人の「ゆるーいキャラ」が癒し系で、ギャグで笑えるけれども、他人を痛めつけるような笑いではないところらしい。
さてこのコミックが世に出た時、実際の宗教人物(聖人・神)をギャグの対象にして不謹慎ではないのか、その是非を論じるキリスト教の牧師のブログが幾つかあったようだ。
しかし最近の検索では殆んど引っかかってこない。どうやら宗教界からのご意見は一段楽してしまったようである。
してみると筆者が今頃取り上げるのはいかにも周回遅れで間が抜けているような気もする。
過去の牧師たちがブログで取り上げた際の「聖人冒涜の有無や是々非々論」は行わない。
このギャグ漫画の設定に見られる世界観と聖書、あるいはキリスト教とのギャップに焦点を当てて少し論じてみよう。
①「世紀末を無事に乗り越え」
イエスと仏陀が「世紀末」を無事に乗り越え、とは何を意味するのか。
世紀末とは20世紀のことであろう。
何やら「終末的様相を帯びた20世紀」が破滅に終わらず21世紀に滑り込んだ、と言うニュアンスであろう。
イエスと仏陀はもしかして天界で協力して破滅を防いだようなことを暗示しているのかもしれない。
「20世紀末」に限らず、キリスト教二千年の歴史の中で「終末の様相」を帯びた時代は幾つもあった。作者はその辺の歴史の事情には余り入り込まない。
キリスト教的に言えば、キリスト初臨以後の歴史は、ペンテコステに始まる「使徒たち、キリストの弟子たちが、聖霊によって活動する時代」である(新約聖書「使徒の働き」)。
このコミックではペテロも天界の人で、地上の教会は殆んど視界に入ってこない。
②天界からバカンスのため降臨
この設定はイエスに関してはかなりキリスト教の教えとギャップが出る。
二千年前の「キリストの初臨」は「受肉の秘儀」として受け止められるのだが、これは「終末の出来事」の始まりで、その完成は「キリストの来臨(再臨)」で、というのが聖書の見方である。つまり「今」は「終わりの始まり」と「究極的終末」との間、と言うのが聖書の歴史観である。
キリストはそれまで天に留まっているわけであるが、このコミックでは「お忍び」で地上に降りてきてしまうわけだ。
しかも「ジョニー・デップ似の優しいお兄さん」として。何かもう一度「受肉」している観がある。
バカンスと言う設定も奇異な感じであるが、それは「世紀末救済」の一仕事を終えた後と言う意味合いなのであろう。
③立川の安アパートで共同生活
イエスはどちらかと言うとPCを使ってブログを更新したり、新し物好きで浪費家のように描かれている。 仏陀は倹約家で絶えず家計の心配をしている。そんな非対称の二人が相互に譲歩したり相手を気遣ったりしながら毎日の生活を凌いで行く。
多分ここがこのコミックの好きな人のはまりどころなのかもしれない。
生活は大変でも日本での毎日は至って小市民的平和に満ちている。ほのぼの感漂う暮らしを描き、そこに宗教ネタのギャグを効かすところが作者中村光の腕の見せ所なのではないか。
最近外国に留学する日本人が減ったと言う。
最近の若者は車を欲しがらない。生活倹約を心がけ、貯金をし、将来に高望みをしない。
そんな傾向をイエスと仏陀の生活ぶりは反映しているように見える。
さて、先日文化批評と言うことで一文書いたが、ギャグ漫画の批評(とまで行かないが)は難しい。
三巻まで読んだが現在まだシリーズは続行中とのこと。どんな展開になっているのかもう少し見てみよう。
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