2012年9月16日日曜日

ハーメニューティックス(解釈学)

今回はかなりマニアックなトピックかと思う。

アントニー・シセルトンという方の名を聞いたことがあるだろうか。
昨日彼の著書、New Horizons in Hermeneuticsを読了した。

途中何度も中断してだから一年以上かかったかもしれない。



英国ノッティンガム大学で長年教鞭を取られ、特に「解釈学」を講じられてきた。
最初に教鞭を取られたシェフィールド大学の聖書学部門で、当時としては(大学の聖書学の分野に)初めて「解釈学」を導入したとのことだそうだ。

本の内容に関してはとても簡単には紹介できない。
何しろ読了するだけで一苦労だったくらいだから。

何と言っても圧倒されるのはそのカバーしている範囲の広さである。

解釈学はもともと学際的な学問だと思うが、聖書学や文学、そして近年は哲学と接してきた、言ってみればリベラル・アーツの基礎のような学問と言えるかもしれない。
何しろ「テキストを読む・・・理解する」と言うことを対象にした学問だから。

筆者は米国での神学校時代、ハイデッガーの影響を受けたキリスト教社会倫理の教授に初めて「解釈学」なるものを紹介していただいてから30年が経つ。
その時はRichard PalmerのHermeneuitcsが教科書だった。シュライエルマッハー、ディルタイ、ハイデッガー、ガダマーが主な解釈学理論家として取り上げられていた。

シセルトンはこれらに加えて、ポール・リクール、ヴィットゲンシュタイン、オースチンやサール等発話行為理論の言語哲学、構造主義、意味論哲学(semiotics)、プラグマティズムのローティーやフィッシュ、クリティカル・セオリーのハーバーマス、現象学的社会学のアルフレッド・シュッツ、解放の神学、ブラック神学、フェミニスト神学、などなど至れり尽くせり、解釈学と言う学際的分野に関わる理論のオンパレード状態である。
良くぞ聖書学の教授がこれほどコンプリヘンシブなカバーレージをしたなと驚嘆する。

のらくら者さんも「いつまでも B. ラムの 『聖書解釈学概論』ではダメですよねぇ・・・。」 とぼやいておられるが(ここをクリック)、旧来の「聖書解釈学」を取り巻く理論環境は飛躍的に複雑になっている。
シセルトンの業績はその意味で辞書学的「テキスト・インタープリテーション」を様々な現代解釈学理論に接続させてくれる貴重なものだと思う。

ある方のブログで今後10年間の神学論争でも「聖書論」は大きな位置を占めるだろうと指摘していたが、「聖書のテキストを中立的な立場で釈義することによって客観的な意味を確立できる」などと言う見解を今でも持っているとすると、現在の「解釈学」的見地からするとそれは理論的に無邪気だと言うことになるだろう。
(教理的から倫理的まで)様々な問題が起こり(それは何時の時代でもそうだが)、その解決を聖書に求めるが、双方の解釈が対立すると言う事態はここかしこで見られる。
解釈者の主観(政治的立場や傾向)が解釈の対立の構図に反映していることを「解釈学」的に観察する必要があることをシセルトンは指摘する。

It enlarges and universalizes Robert Morgan's observation that "some disagreements about what the Bible means stem not from obscurities in the texts, but from conflicting aims of the interpreters." It seems to provide an intellectual and philosophical explanation for the gut-level feeling shared equally by many right-wing conservatives and left-wing radicals, that not only is the ideal of disinterested scholarship an outdated liberal illusion; but also that all biblical exegesis can be predicted by socio-political typifications of "conservative", "neo-liberal", "radical", "historical-critical", "moderate", or "pleasing the Board and the Constituency" goals of interpretation. (P.588, italicsは著者)
まっ、ちょっとまとまりの悪い紹介になってしまったが関心のある方はこのビデオ辺りからどうぞ。(勿論英語です。)


1 件のコメント:

  1. のらくら者2012年9月17日 0:46

    教授は major stroke から十分に快復されたようですね。感謝です。

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