書評とは呼べないので雑想としておいた。
『A Wild Haruki Chase 世界は村上春樹をどう読むか』(文春文庫)
国際交流基金の企画で、アジアや欧米から村上春樹の翻訳者を一堂に集めたイベントが2006年に持たれた時の記録である。
本の紹介はこちらやこちらにおまかせして、ここでは単刀直入に筆者が面白く感じたことを二点だけ。
(1)リチャード・パワーズの基調講演
これが圧巻だった。最近の脳科学の発見に引き付けながらムラカミ・ワールドを解いていくのだけれど、読んでいて「最近の脳科学」が面白いのか、ムラカミの小説世界が面白いのか、何か混乱してしまった。
最近の脳科学についてはとても面倒くさくて説明できないので『認知神経リハビリテーション学会』のブログに掲載されていた書評をご参考まで。
一箇所だけ短く引用しておく。
村上春樹の小説を読む上での大きな楽しみのひとつは、日常的リアリズムと地下の幻影、この二つのミスマッチされた世界のあいだにいったいどんな関係が生じていくのかを想像するところにあります。これらの別個の、しかし密接に結びついた二つの世界は明らかに、蝶番でつながれたかのように依存しあっているわけですが、その蝶番とは、多くの場合、物語のプロセスそれ自体です。(50ページ)
(2)村上不在の中で翻訳者たちによって熱く語られるムラカミ・ワールド
本の最後のところに、(国際交流基金)企画担当の佐藤幸治が「『春樹をめぐる冒険』舞台裏報告」を書いている。
昼夜を分かたず、春樹談義は止まない。あいにくご本人は海外滞在中で参加がかなわなかったけれども、コヴァレーニンさんが、「村上さんはいないけれど、私たちが、まるでそこにいるように彼のことを話すことで、いるのと同じことになったんですよ。これこそまさに村上ワールドです!」と言い、みな納得顔で頷いた。(302ページ)と言うところで(実際したわけではないが )ひざを打った。
この「彼」を「イエス・キリスト」に置き換えれば、それはまさに礼拝であり、キリスト者生活であり、伝道・証じゃないか、と。
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