2011年12月2日金曜日

教会暦と信条

先日ご紹介したスコット・マクナイト教授の「王なるイエスの福音」をようやく入手して読了した。

「福音」とは「イエスが王であり主であることを宣告する」こと、及びその枠組みは「イエスの物語がイスラエルの物語を完了し、解決する」ものであること、が一貫して説かれている。

福音が「救いの計画(あるいは救いの順序)」とそれを「説得する」こととほぼ混同、還元されている現状に対して、パウロが簡潔な形で伝承された『福音』(Ⅰコリント15章)、四福音書、使徒の働きに収録されているペテロとパウロの伝道説教に照らし合わせて「使徒的福音」の輪郭を提示し、それを通して矮小化された現在の福音理解を比較分析している。

ここまでの部分はほぼ予想通り、と言うか筆者が考えてきた「福音問題」を扱う方法論として共通するものがある。

ただ筆者の考察で足りない部分として「いかに『ゴスペル・カルチャー』を育てていくのか」と言う課題に対して、マクナイト教授はやや面白い提案をしている。

それが標題の『教会暦』と『信条(歴史的信仰告白や宣教会議文書も含めているが)』の自覚的使用である。

最近(ここ10~20年位の傾向か?)福音主義のクリスチャンがカトリックや正教に改宗すると言う現象が目に付く。
一つは聖書の個人解釈権の原理に立つことによる果てしない論争、権威の脆弱性や崩壊に幻滅して、と言う面があるだろう。
さらに「信心(の継続)に関し、プロテスタント個人主義の不安定性に対し、カトリックや正教が提供する「教会的伝統」の安定性が評価されていることがあるであろう。

そのような傾向の中でプロテスタント側も「リタージカル(典礼)」なものへの関心・接近が無きにしも非ず。

しかしマクナイト教授が『教会暦』と『信条』をゴスペル・カルチャーを醸成するものとして提案しているのは以上のような文脈からではなく、『教会暦』と『信条』がまさに彼の言う『福音』の提示と見るからだ。
この指摘にはやや意外な感じがした。
The church calendar is all about the Story of Jesus, and I know of nothing ... that can "gospelize" our life more than the church calendar. It begins with Advent, then Christmas, ... Anyone who is half aware of the calendar in a church that is consciously devoted to focusing on these events in their theological and biblical contexts will be exposed every year to the whole gospel, to the whole Story of Israel coming to its saving completion in the Story of Jesus. (p.155、強調は筆者)
逆説的かつ皮肉っぽい見方だが、このような「ゴスペル・カルチャー」で漫然と育ったカトリックの信者は、福音主義が強調するイエス・キリストに対する自覚的回心にどれだけ至っていると言えるのだろうか。
教会暦それ自体ではゴスペリングしていると言えるのだろうか。
文化=習慣に埋没してしまうことがどれだけ多いことだろう。

だから教会暦の「神学的、かつ聖書的文脈」をよほど自覚した上で、しかも全体を「ナレーティブ」な枠組みで把握した上で教会暦を過ごさないと「ゴスペリングしている」とはならないのではないか。

信条に関しては更に意外に感じた。
確かに『使徒信条』くらいまではマクナイト教授の言う「福音」の内容を羅列していると言えるだろう。
しかしその“信仰箇条”を「イエスの物語がイスラエルの物語を完了し、解決する」と言う枠組みで告白している信者はどの位いるだろうか。
これも「ナレーティブ」な意識で取り組まないと個別の箇条の寄せ集めに感じられてしまうのではないか。
さらにその後のニカヤ・カルケドン信条に至ってはギリシャ的思惟のオブラートが被ってしまってユダヤ的思惟の遺産である「ナレーティブ」枠組みは殆んど意識されず、教理的に統合されたものに映るのではないか。
最近の研究ではユダヤ的ナラーティブ構造が認められることが指摘されているが。Oskar Skarsaune and Reidar Hvalvik編著、JEWISH BELIEVERS IN JESUS, (Hendrikson, 2007)

しかし個人的にはマクナイト教授の提案する、教会暦と信条をゴスペリングな機会として自覚的に用いることには賛成である。

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