2011年4月15日金曜日

3.11とメタノイア

キリスト教ではメタノイア(『悔い改め』)を個人の行った罪責に対して悔い改める、と理解されている。所謂「罪の悔い改め」で、カトリックで言えば「懺悔」になるのかな。

しかしイエスの宣教において「悔い改めよ。神の国は近づいた。」と言う時、それは個人的な罪の悔い改め以上のニュアンスがある。少なくともその可能性がある。

それは「方向転換」と言うニュアンスでなされた。
イエスは、ローマの支配に武力を持って抵抗するユダヤ人(特にサウロのような国粋主義的パリサイ派の中のシャメアイ・グループのような急進派)に対して「メタノイア」と方向転換を迫ったのだ。(山上の垂訓における「愛敵の教え」も同様のニュアンスで捉えることができる)。

3.11、東日本大震災、特にそのうちの東京電力福島第一原発事故は、この国にメタノイアを突きつける深刻な意味を持つものであると思う。
政府・産・官・学が一体となって推進してきた原子力エネルギー政策が大きな岐路に立たされている。そういう重大な方向転換の時であるという受け止め方が要請されている。

この巨大な推進力に抗ってきた僅かな識者や市民グループが今ネット上では注目をされている。しかしマスメディアを牛耳る巨大な推進力は「原子力は安全」神話で彼らの警鐘や警告を押しつぶしてきた。
この度の深刻な事故でやっと国民(の一部)が彼らの声に耳を傾け始めているような印象である。
斯く言う筆者もついぞ聞いたことがなかった。

一体これだけの「過酷事故」を起こして、政府が、電力業界が、その他これを推進してきた「原子力ムラ(飯田哲也「原子力村の解体と市民社会の再構築」参照。月刊誌『論座』からの転載のようです。)」の人々が、原子炉発電に対する根本的見直し、メタノイアをしないで済まされるだろうか。

しかしその一部がこの度の事故に対して一定の「悔い改め」を表明した。
主要メディアでは言及されるぐらいで全文掲載はされなかったようだ。
原子力行政に加担した責任ある人たちの連名での謝罪文として一読の価値がある。
筆者も原発問題に対して無関心であったことを悔い改めて日々学習の毎日であるが、この文章、「福島原発に関する緊急建言」を、Peace Philosophy Centre と言うNGOに行き当たって読むことが出来たのだが、以下に紹介する。(是非この提言を出すよう進言した安斎育郎さんの文章も共にお読みいただきたい。リンク

福島原発事故についての緊急建言

はじめに、原子力の平和利用を先頭だって進めて来た者として、今回の事故を極めて遺憾に思うと同時に国民に深く陳謝いたします。

私達は、事故の発生当初から速やかな事故の終息を願いつつ、事故の推移を固唾を呑んで見守ってきた。しかし、事態は次々と悪化し、今日に至るも事故を終 息させる見通しが得られていない状況である。既に、各原子炉や使用済燃料プールの燃料の多くは、破損あるいは溶融し、燃料内の膨大な放射性物質は、圧力容 器や格納容器内に拡散・分布し、その一部は環境に放出され、現在も放出され続けている。

特に懸念されることは、溶融炉心が時間とともに、圧力容器を溶かし、格納容器に移り、さらに格納容器の放射能の閉じ込め機能を破壊することや、圧力容器 内で生成された大量の水素ガスの火災・爆発による格納容器の破壊などによる広範で深刻な放射能汚染の可能性を排除できないことである。

こうした深刻な事態を回避するためには、一刻も早く電源と冷却システムを回復させ、原子炉や使用済燃料プールを継続して冷却する機能を回復させることが 唯一の方法である。現場は、このために必死の努力を継続しているものと承知しているが、極めて高い放射線量による過酷な環境が障害になって、復旧作業が遅 れ、現場作業者の被ばく線量の増加をもたらしている。

こうした中で、度重なる水素爆発、使用済燃料プールの水位低下、相次ぐ火災、作業者の被ばく事故、極めて高い放射能レベルのもつ冷却水の大量の漏洩、放射能分析データの誤りなど、次々と様々な障害が起り、本格的な冷却システムの回復の見通しが立たない状況にある。

一方、環境に広く放出された放射能は、現時点で一般住民の健康に影響が及ぶレベルではないとは云え、既に国民生活や社会活動に大きな不安と影響を与えて いる。さらに、事故の終息については全く見通しがないとはいえ、住民避難に対する対策は極めて重要な課題であり、復帰も含めた放射線・放射能対策の検討も 急ぐ必要がある。

福島原発事故は極めて深刻な状況にある。更なる大量の放射能放出があれば避難地域にとどまらず、さらに広範な地域での生活が困難になることも予測され、一東京電力だけの事故でなく、既に国家的な事件というべき事態に直面している。

当面なすべきことは、原子炉及び使用済核燃料プール内の燃料の冷却状況を安定させ、内部に蓄積されている大量の放射能を閉じ込めることであり、また、サ イト内に漏出した放射能塵や高レベルの放射能水が環境に放散することを極力抑えることである。これを達成することは極めて困難な仕事であるが、これを達成 できなければ事故の終息は覚束ない。

さらに、原子炉内の核燃料、放射能の後始末は、極めて困難で、かつ極めて長期の取組みとなることから、当面の危機を乗り越えた後は、継続的な放射能の漏 洩を防ぐための密閉管理が必要となる。ただし、この場合でも、原子炉内からは放射線分解によって水素ガスが出続けるので、万が一にも水素爆発を起こさない 手立てが必要である。 

事態をこれ以上悪化させずに、当面の難局を乗り切り、長期的に危機を増大させないためには、原子力安全委員会、原子力安全・保安院、関係省庁に加えて、 日本原子力研究開発機構、放射線医学総合研究所、産業界、大学等を結集し、我が国がもつ専門的英知と経験を組織的、機動的に活用しつつ、総合的かつ戦略的 な取組みが必須である。

私達は、国を挙げた福島原発事故に対処する強力な体制を緊急に構築することを強く政府に求めるものである。

平成23年3月30日

青木 芳朗   元原子力安全委員
石野 栞     東京大学名誉教授
木村 逸郎   京都大学名誉教授
齋藤 伸三   元原子力委員長代理、元日本原子力学会会長
佐藤 一男  元原子力安全委員長
柴田 徳思   学術会議連携会員、基礎医学・総合工学委員会合同 放射線の利用に伴う課題検討分科会委員長
住田 健二   元原子力安全委員会委員長代理、元日本原子力学会会長
関本 博    東京工業大学名誉教授
田中 俊一   前原子力委員会委員長代理、元日本原子力学会会長
長瀧 重信   元放射線影響研究所理事長
永宮 正治   学術会議会員、日本物理学会会長
成合 英樹   元日本原子力学会会長、前原子力安全基盤機構理事長
広瀬 崇子   前原子力委員、学術会議会員
松浦祥次郎   元原子力安全委員長
松原 純子   元原子力安全委員会委員長代理
諸葛 宗男   東京大学公共政策大学院特任教授
このような文章が、これまで反原発の立場で研究や啓蒙活動を続けてきた少数の識者からではなく、推進してきた側の立場からの発言として重く見る必要がある。
危機的現状の把握も概ね反原発の立場の識者の見方に近い。

既に紹介した「小出裕章」「広河隆一」「広瀬隆」らのビデオの他にお奨めは以下のビデオ。
落ち着いた語調でことの重大さ、深刻さを伝えている。
2時間ぶっ通しの講演と質疑応答で、トータル2時間半くらいだが、是非「メタノイア」の状況に私たちが立ち会っていることをよく自覚して見てもらいたい。

藤田祐幸2011年4月9日湯布院講演「今、福島原発でなにがおきているのか」

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